20090828

逆境に負けない心境をつくる

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将棋の棋士 羽生善治 さんが 名人位を奪還した際に,とても形勢の悪い将棋を逆転して勝利した対局があったそうです. そのときに,羽生さんが心境を語ったその言葉が,強さの 所以(ゆえん)をストレートに説明していて,私にとっても参考になる ひとことだったのでここに紹介します.


将棋は メンタルの戦い の要素も大きく,将棋を指される方はよくご存知かと思います,プレーヤーの気分は 勝負の優劣によって天と地 ほど違うものです.素人の遊びでも 結構感情の起伏が 激しくなることもありますから,生活のすべてを賭けたプロ棋士の メンタルの 状態は,想像しがたいものがあります.

将棋に限りませんが,一般的には 劣勢に傾いていくと,熱くなりすぎ冷静さを失ったり,投げやりになったり,焦ったりすることが あります.すると不利な状況が 余計,拡大していきかねません.そこで先日聞いた名人の言葉です.



          「ただ,ひたすら最善手



形勢の優劣を感情的に捉えないようにするため,瞬間瞬間の局面を ただひたすら最善の一手を追求する連続性の無いゲームとして捉えて いるという意味に考えることができます.仮に,一手で完結する正解を導き出すクイズとして各局面を捉えたとしたら,... 一手,一手ごとに新鮮なゲームを与えられるような,気持ちを維持することができます.そのため,たとえ形勢が悪い状態であっても, そのネガティブな気持ちを次の手番まで引きずることなく,各局面で最善を尽くすことができる という訳です.

トップ棋士の強さは,こうした心境の作り方による部分も,勝敗に大きなウエイトを占めると思います.このような,取り組み方に よれば,劣勢に追い込まれた局面だけでなく,気のゆるみやすい優勢の局面においても,メンタルの影響が受けにくい構造をつくっている ことに感心します.こういった習慣は,トップに登りつめる過程で,棋士として磨かれていった賜/結果なんでしょうね.





このようなメンタルをポジティブに維持する方法は,なにも将棋の世界に限ったことではないと思います. 勉強の分野でも,ビジネスでも,私たちの何気ない日常においても,多くの分野に広く利用できる方法ではないかと思います.

実践的には,感情を抜きに 現在の瞬間だけを切り取って,”何が最善か?”を考えて実践するという感じになるかと思います. 行動の選択肢は現在の実行可能な範囲となりますが,気をつけなければいけない点は,最善を判断する基準です. 最善の基準は,現時点の損得や優劣ではなく,あくまで将来の目標達成の時点の価値と言うことになります.

実践にあたって基準の置き場を,現時点か 将来目標達成時点か,による違いを意識することは 重要です.短い視野で目先の利益にのみ とらわれていると,将来の目標がずいぶん遠回りになる場合もあるかもしれません.将来を見据えて実践するか,否か,で同じ努力でも 将来は大きな差をとなって現れてくる可能性があります.

しかし,遠い将来だけを漠然と夢見ていても,どうしていいのかわからない状態になってしまうかもしれません.よく言われることですが, いかなる大目標も,目前の実践的な目標を立てて実践していくという基本に変わりません.その実践目標を,将来の目標達成に繋げるべく 目標設定することが大切です.





目標が高ければ高いほど,自分自身のメンタルとの戦いが激しくなると思います.それは,時に最善の実践,努力を繰り返しても, 大目標から遠のくばかりの局面もあるかもしれません.冒頭にあげた 名人の劣勢をはね返して,勝利を得るという劣勢に至る過程と 似ています.どんどん状況が悪くなる局面でも,名人はやはり最善を目指していたであろうことは確かです.しかし,それが単に間違う 場合も,様々な要因が読み切れない場合もあるかもしれません.このように,投げやりになってしまいそうになったり,目標をつい下げて しまいそうな衝動に駆られたりと,目標の高さに応じて自分のネガティブな側面と戦わなければならないのです.

私たちの実生活の中でも,選択可能な選択肢すべてが不利益な状況しか選べないようなピンチだって訪れるかもしれません.そんなとき にも,特別複雑なことを考える必要はありません.これまでに述べたように,将来 最も不利益の小さい選択肢を選ぶということが, 最善手ということになるということに過ぎません.これと反対に,どうやっても自分の優位が不動で,何をやっても有利に働きそうな, まるで飛ぶ鳥落とす勢いのある時だって,これまでの実践が実を結んで訪れるかもしれません.しかしそんなときにも,浮かれていては いけません.このような場合にあってもこれまで述べたことの実践あるのみで,将来 最も有益になるだろうと考える選択と実践を 冷静に 着々と実行するということだけです.


このように一流を極めるトップ・プロについて,私がよく思うことですが,思考ロジックがとてもシンプルで,そのロジックを素人に 単純明快な言葉にすることができるんですね.こういう思考ロジックなんかにも不思議と,芸術的な美しさがあるように思います.







[記事URL] http://dorilu.net/blog/?th=2009082800
カテゴリー:コラム(15)